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名古屋高等裁判所 昭和47年(行コ)22号 判決

控訴人 臼井猪織

被控訴人 名古屋東税務署長

訴訟代理人 伊藤好之 外三名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事  実 〈省略〉

理由

一  当裁判所は、控訴人の請求は失当として棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり補足訂正するほか、原判決理由説示と同一であるから、右記載をここに引用する。

(一)  原判決七枚目裏六行目「乙第二号証によれば」より同八行目、九行目「不動産鑑定士河合元三は」までを「乙第二号証によれば、不動産鑑定士河合元三は」と訂正する。

(二)原判決八枚目裏二行目、九枚目表一行目「妥当なものということができるからである。」より九枚目表八行目「右認定を左右するものでない。」までを「妥当なものということができる。また、〈証拠省略〉によれば、控訴人は本件土地を担保として金融金庫から融資を受ける必要上大和銀行に鑑定を依頼したところ、同銀行所属の不動産鑑定士補渡辺安正も本件土地の昭和四二年一〇月一三日時点の更地価額を前示の河合元三と同様の方法で鑑定し、一九、一四七、八七〇円と評価していることが認められ、以上の認定事実に徴すれば昭和四二年一一月二七日当時における本件土地の時価は一九、一四七、八七〇円を下らないものとみるのが相当である(右渡辺が銀行所属の鑑定士であり、同人の鑑定が本件土地を担保として提供し融資を受ける必要上控訴人が依頼したものであるからといつて直ちに右一九、一四七、八七〇円の評価が自由な取引において通常成立すると認められる価額を評価したものでないとすることはできない。)

(三)  原判決九枚目表九行目「また」とあるを「もつとも」と、一一枚目九行目中「九、八三三、〇〇〇円」とあるを「九、五七三、九三五円を下らないもの」と改める。

(四)  原判決一一枚目表一〇行目から同裏四行目までを「三、ところで本件土地による現物出資四〇〇万円は、右認定の価額の二分の一に満たない著しく低い金額を対価とするものであるから、所得税法五九条一項・同法施行令一六九条により譲渡所得の金額の計算については右認定の価額を下らない金額より資産の譲渡があつたものとみなされるべきである。」と改める。

(五)  原判決一一枚目裏七行目中「九、八三三、〇〇〇円」とあるを「九、五七三、九三五円を下らないもの」と、同九行目「八三三三、〇〇〇円」とあるを「八、〇七三、九三五円を下らないもの」と、同一一行目「八、〇三三、〇〇〇円」とあるを「七、七七三、九三五円を下らない」と、一二枚目表二行目、同四行目中「四、〇一六、五〇〇円」とあるを「三、八八六、九六七円を下らないもの」とそれぞれ訂正する。

二  よつて、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九五条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 綿引末男 山内茂克 豊島利夫)

【参考】一審名古屋地裁昭和四六年(行ウ)第九号(昭和四七年一一月一六日判決)

主文

一 原告の請求をいずれも棄却する。

二 訴訟費用は原告の負担とする。

事  実 〈省略〉

理由

第一請求の原因一、二の事実は当事者間に争いがない。

第二 そこで、本件各処分の適法性につき判断する。

一 原告が昭和四二年一一月二七日の訴外臼井ビル設立にあたり原告所有の本件土地を四〇〇万円相当とし現物出資したこと、および右現物出資は同社の株式払込期日である同月二四日までになされたことは当事者間に争いがなく、右現物出資は所得税法上、資産の譲渡にあたるというべきであるから、原告は、右現物出資により昭和四二年分の譲渡所得をえたものということができる。

二 そこで本件土地の現物出資当時の価額につき判断する。

1 〈証拠省略〉によれば本件土地の昭和四二年一一月二七日当時の時価相当額は一九、六六六、〇〇〇円であると認めることができる。すなわち右各証拠によれば、不動産鑑定士河合元三は昭和四五年四月名古屋国税局長からの依頼により、本件土地の昭和四二年一一月二七日当時の価額を鑑定評価するにあたり、その更地としての評価額を一九、六六六、〇〇〇円と鑑定評価しているところ右鑑定評価額は、対象土地の近隣地域の更地取引事例にもとづく比準価格および土地残余法にもとづく収益価格を関連づけて算出評価されたものであるが、右比準価格を一九、四〇七、〇〇〇円(一平方メートル当り三七、五〇〇円)と算出するにあたつて、資料とした取引事例の収集過程、右取引事例中からの本件土地に規範性のある適切事例の選択過程、時点修正のための変動率の算定過程、適切事例と対象不動産(本件土地)の比較検討過程等に、とくに不合理と思われる点がないこと、また収益価格を一九、八三三、〇〇〇円(一平方メートル当り三八、三〇〇円)と算出するにあたつて採用された最有効利用状態の認定過程、その場合の収益額必要経費額の算出過程、土地残余法の適用等に、とくに不合理と思われる点がないこと、また右によりえた比準価格と収益価格の開差が一平方メートル当り八〇〇円であるが収益価格の実現性に着目し、かつ地価公示法八条、一一条に従つて対象不動産と類似する標準地とも比較検討しこれと均衡を保ちうるものとして、一平方メートル当り三八、〇〇〇円総額一九、六六六、〇〇〇円と評価額を決定した理由も首肯できるものであること、以上の各事実が認められるほか、右鑑定人自身の公正を疑わせるような事実を認めるにたりる資料もない本件においては右鑑定評価額は一応妥当なものということができるからである。而して、〈証拠省略〉によれば、不動産鑑定士補渡辺安正が、原告の依頼により担保提供目的のため本件土地の昭和四二年一〇月一三日時点での更地としての価額を鑑定し、一九、一四七、八七〇円と評価していることが認められ、前記認定にかかる評価額より若干低額であるとはいえ、右は担保提供目的での依頼に対する銀行所属鑑定士の評価であることを考慮すれば、右資料の存在は格別右認定を左右するものでない。

また、〈証拠省略〉によれば、当庁選任検査役弁護士郷成文は、本件現物出資についての検査報告にあたり同人の依頼した訴外早川友吉の鑑定評価意見などを総合勘案したうえ、本件土地の更地としての適正価額を三、三平方メートル当り九万円、総額一四、〇八九、五〇〇円としその旨報告したのであるが、右早川の鑑定評価意見は、本件現物出資当時本件土地についての名古屋市の固定資産税の評価額に二倍半を乗じた額と名古屋国税局の相続財産評価基準の路線評価額に一倍半乗じた額とのほぼ中間額をもつて評価額とするものであるところ、固定資産税の評価額、相続財産評価基準の路線評価額が一般に時価より低額であり相当の倍率を乗じなければ適正価額がえられないとの理由から右倍率が乗じられたものであることが認められる。しかし何故右各倍率が本件土地の適正価額の算定にあたり相当であるのかの合理的な根拠については首肯させるにたりる資料はないので、少くとも本件のような個別的取引にあたつての適正価額の認定にあたつては、右早川の鑑定評価額によることは不相当であるというのほかなく、したがつてまた右鑑定意見に依拠してなされた右検査役の検査報告における価額をもつて、本件土地の適正価額ということもできない。その他、先の認定事実を覆えすにたりる適切な証拠はない。

さらに、原告は、検査役の報告した評価額は裁判機関が検査決定したものであるから、課税庁もこれを尊重し、これに従うべきであると主張する。しかし、そもそも現物出資における検査役の検査制度は、現物出資の目的財産の価額が時価をこえて評価され出資額とされることにより会社資本の充実を欠くに至ることを防止することの観点からなされるものであるから、目的財産の評価額が一応現物出資額以上であるかぎり、現物出資は適正として検査報告されるわけである。したがつて、本件においても、検査役は本件土地価額が現物出資額である四〇〇万円以上であることの判断の下に本件現物出資を適正としたとみるべく、適正価額が原告の主張する七、〇四四、七五〇円であつてそれを超える価額はありえないとするものでもなく、かつ右価額が裁判所に容れられたとしても、裁判所がこれを公権的に確定したものであるということはできないから右価額を尊重しこれに従うべきであるとの主張は失当である。

2 次に本件土地には当時原告の父臼井久雄が借地権を有し、地上に建物を所有していたことは当事者間に争いがないので、本件土地の価額は更地としての価額から右借地権相当額を控除して算出すべく、右借地権割合は弁論の全趣旨によりこれを五〇パーセントと認めるべきである。

よつて、借地権相当額控除後の本件土地の現物出資時における価額は九、八三三、〇〇〇円ということができる。

三 そこで、本件土地による現物出資額四〇〇万円は、その価額九、八三三、〇〇〇円の二分の一に満たない著しく低い金額を対価とするものであるから所得税法五九条一項、同施行令一六九条により本件における譲渡所得金額計算における収入金額は右価額相当金額九、八三三、〇〇〇円とみなされることとなる。

四 したがつて、これを基礎に原告の昭和四二年分所得税にかかる総所得金額に加算すべき譲渡所得金額を計算すると、前記のとおり収入金額は、九、八三三、〇〇〇円であり、また本件土地の取得価額が一五〇万円であることは当事者間に争いがないから、譲渡益は八、三三三、〇〇〇円であり所得税法三三条四項により特別控除額三〇万円を控除した後の譲渡所得金額は、八、〇三三、〇〇〇円となる。そして総所得金額に加算すべき譲渡所得金額は同法二二条二項二号により右金額の二分の一であるから、その額は四、〇一六、五〇〇円である。

五1 右のとおり原告の昭和四二年分所得税にかかる譲渡所得金額は四、〇一六、五〇〇円であり、本件決定処分における譲渡所得金額三、七六九、〇〇〇円は、右金額の範囲内であり、本件決定処分における給与所得金額および所得から差引かれる金額については原告が明らかに争わないのでこれを認めたものとみなすべきであるから、本件決定処分は正当額の範囲内でなされたものであり適法であるということができる。

2 また、本件無申告加算税賦課決定処分は右適法な決定処分により納付すべきこととなつた所得税額に基づいてなされたものであるから一応適法なものということができる。

なお、原告は期間内申告書を提出しなかつたことには正当な理由があると主張するが、原告本人尋問の結果によれば、原告は本件現物出資について昭和四三年分所得申告にあたり、これを同年分所得として申告したが、右申告をなすに至つたのは本件土地上に建物(ビル)を建設する時点で所得があつたことになるとの誤解に基づくものであること、そして右誤解は昭和年四三分所得税申告にあたつての名古屋東税務署員に対する納税相談においても解消されず本件決定処分があつてはじめて解消されたものであること等の事実が認められる。しかし、かように誤解のため次年分としての申告を行つた事実があつたとしても、これのみで期限内申告書不提出の正当理由があるということはできず、他に右正当理由を認めるにたりる資料は全然ないので、右原告の主張は採用できない。

第三よつて、本件各処分はいずれも適法であり、原告の本訴請求はいずれも理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条により主文のとおり判決する。

(裁判官 山田義光 下方元子 小槍克已)

別紙〈省略〉

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